807億ドル(約12.69兆円)の赤字、と聞いた瞬間、俺の脳は桁を数える仕事を放棄して喪服の手配を始めた。まだ書類も開いていない。なのに頭の中では研究者が段ボールを抱えて退社し、誰もいなくなったオフィスでClaudeだけが「何かお手伝いできますか」と光っている。手伝ってほしい。まず俺の早とちりを。そして営業損失の欄を見たら、6.93億ドル(約1,089億円)と書いてあった。
待て。残りの800億ドル(約12.58兆円)はどこへ行った。
頭の中の葬儀委員会を解散させる。花を片づけろ。ところが脳内の僧侶はもう読経を始めていて、俺が営業損失の数字を見せても「こちらは純損失のご葬儀ですので」と担当部署の違いを主張する。何だその縦割り行政。俺の早とちりが宗教法人になって、訂正を受け付けなくなっている。
Claudeを開発するアンソロピックが、上場に向けた書類を公表した。IPO、つまり会社の株式を広く投資家に売り出す新規株式公開だ。「ANT」という銘柄コードでナスダックへの上場を申請している。
今回の材料は、2026年10月26日に米国の証券取引委員会、SECへ提出された「S-1」。事業、財務、株式の仕組み、リスクをまとめた登録書類である。出典:Anthropic S-1
売上は猛烈に増えている。本業の赤字は縮んでいる。最終的な赤字は巨大化している。しかも会社の価値が上がったせいでも赤字になるという。めでたい話と怖い話が同じ玄関から入ってきて、靴も脱がずに俺の判断を占拠し始めた。
「じゃあ大丈夫なんだ」と安心しかけると、将来の設備代が最後に入ってきて鍵をかける。まだ帰るな。俺の支払いの話が済んでいない。
さらに周りの会社を調べると、同じ「AI関連」の袋に入れていた企業に、まるで違う値札が付いていた。
俺は「儲かった」と「損した」の引き出ししか用意していなかった。そこへ売上、評価損、現金、将来の支払いを全部詰めて、閉まらないので膝で押していたら、向こう側から家賃が押し返してきた。家具の中に債権者がいる。もう整理整頓では解決しない。膝をどけて、誰が何の金を要求しているのか聞くところから始める。
※円換算は全編を1ドル=157.20円で統一した概算。過去の金額も同じレートで換算している。日本銀行・2026年10月26日中心相場