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物を持たないミニマリスト

少なく持って、深く見る。

何もない部屋で、急落後に一点だけ灯るチャートを見つめる男性

「荷物を極限まで持たない暮らし」スレの14年をチャートで読んだら、最後はスレそのものが片付いていた

チャートを見ている。仕事柄、毎日見る。上がって、もみ合って、跳ねて、天井をつけて、崖。崖の下はずっと横ばいで、横ばいというか地面で、右端に点が1個だけ灯っている。よくある形だ。仕手株が祭りのあとに置いていかれると、だいたいこうなる。

株じゃない。2ちゃんねるの掃除板にあるスレだ。「荷物を極限まで持たない暮らし」。縦軸は値段じゃなくて、1日に何レス書き込まれたか。Part 13から、いまのPart 29まで。

「荷物を極限まで持たない暮らし」スレの勢い(1日あたりのレス数)

上昇相場、そして天井

2012年のスレは、とにかく具体的だ。寝袋だけで冬を越せるか、何度対応のやつなら死なないか。日常で背負えるリュックは30リットルか45リットルか。洗濯機を捨てて風呂で手洗いすると、脱水で手首が死ぬ。傘は持たずに済むか、コンビニのビニール傘を使い捨てるのは極限なのか浪費なのか。パソコンの中のデータも荷物か。引っ越しが段ボール5箱で終わった、と報告が来る。誰かが部屋の写真を上げると、その日は祭りになる。

住人の線引きもはっきりしていた。ここはエコでも節約でも快適な暮らしでもなく、極限まで物を持たない人のスレだ、と。極限を節約と取り違えている人がいる、という指摘も出る。年が明けると、倉庫やレンタルボックスに荷物を預けているのは極限と呼べるのか、で揉める。持っていないのか、持っているけど見えない場所にあるだけなのか。株で言えば、現物か、信用で外に置いているだけか。

2013年に入ると、少しだれる。何が極限かの定義論が続き、次スレはいらないという声まで出る。夏は1か月に100件そこそこの過疎。俺も当時このブログに、極限スレもだんだん糞スレ化してきた、と書いている。2013年9月。

その月、相場が噴く。8月の終わりにほかの板で物がほとんどない部屋の写真が晒されて、まとめサイト経由で新しい人がどっと来る。9月だけで500件を超える。9月30日に立ったPart 19は、1000レスまで46日。1日あたり約22レスで、スレの歴史で最速。チャートのいちばん高いところがそれだ。

中身を読むと、天井を作ったのは良い話じゃない。サバイバル装備は極限か、都会の暮らしか。財布に万札を1枚だけ入れておくのは許されるか。特定の脱水機を推す連投はステマか。毎日のように揉めている。いちばん書き込まれた日は1日62レス。11月には住人の一人が、揉めているときしか進まないじゃないか、とぼやいている。出来高は喧嘩でできていた。相場もだいたいそうだ。

新しい材料と、崖

2014年の春、スレに主役が現れる。半年かけて物を減らした大学生が、寝袋ひとつの部屋と、持ち物を図にした一覧を上げた。住人は湧いた。夏にもう一度現れたその人は、25リットルのバックパックを15リットルに替えていた。チャートの外では、この頃がたぶん、スレがいちばん幸せだった。

同じ年、外から新しい材料が入ってくる。「ミニマリスト」という言葉だ。5月ごろからスレの中でその単語が急に増え、住人はすぐに線を引いた。向こうは快適に暮らしたい人、こっちは生き延びるぎりぎりを探す人。鞄ひとつに収まらない物の話はスレ違い、という決まりも固まっていく。春からは名前欄に転載禁止の文字が付く。銘柄が有名になると、古参は「あれは本物じゃない」と言い出す。どこの板でも同じだ。

2015年。ホテル暮らしのように、外のサービスに任せて持たないのは極限か、で揉める。自分たちをミニマリストと区別するために、キョクゲニストと名乗る人も出てくる。

そして7月、NHKの朝のニュースでミニマリストの特集が流れる。(その端っこに、実は俺も一瞬映っている。)同じ朝、スレにはNHKでミニマリストの話をやっていたと知らせる書き込みが出る。すぐ下に、うちにはテレビもラジオもないので、と返した人がいる。ほかの板ではステマ扱いだった、と書いた人もいる。極限まで物を持たない人たちのところには、極限まで物を持たない暮らしの特集が、物理的に届いていなかった。

相場の世界には、靴磨きの少年が株の話を始めたら売れ、という有名な話がある。誰でも知っている話題になったら、もう買う人は残っていない、と。Part 25が埋まったのが7月17日で、次のPart 26は1000レスまで1年かかる。1日7レスあったのが、1日3レス弱になる。チャートの崖だ。

もちろん、テレビのせいで崩れたという証拠はどこにもない。同じ月に起きた、というだけだ。ただ、チャートを見る人間は、こういう並びをどうしても見てしまう。

Part 26は、立って2か月は伸びた。秋には、有名なミニマリストがメーカーの部屋企画に出たのを、住人が冷ややかに眺めている。そのあとは冷えて、年が明けると、句点だけの書き込みでスレを落とさないようにする日が続く。1年かけて埋まった最後のほうで、誰かがスレタイをもじって、とうとうスレを立てることまで極限まで控える暮らしになった、という意味の一言を置いている。うまい。住人は、自分たちの相場が終わったことを、誰よりも先に冗談にしていた。

出来高は、隣の板へ

2016年、無印良品で全部そろえました、という報告に、それはただのブランドの乗り換えだと突っ込みが入る。

2017年の春、久しぶりにスレを覗いた人が、古い顔ぶれがいなくなったことに気づいている。別の人が教えている。先に行った人たちは、バンライフのスレへ移ったよ、と。全部を捨てた人たちは、最後に車に乗って出ていったらしい。

残った人たちは、その年の大晦日に爪の話をしている。爪切りを持っていない人は、伸びた爪をどうしているのか。職場や店のを借りるか、噛むか。爪切りを捨てても、はさみや包丁を持っていたら極限じゃないのでは、と追い打ちまで入る。物を減らし切った人たちの最後の議題が、爪だった。

Part 27は1000レスまで2年。Part 28は3年2か月。2019年から20年にかけてのPart 28では、スマホだけで暮らせるか、キャッシュレスは現金に勝てるか、ネットカフェで暮らす話、仏壇と墓をどうするか、マイナンバーカードに身分証をまとめたい、という話をしている。コロナでコインランドリーが怖い話、ユーチューブのミニマリストのルームツアーへの文句。2012年に冷蔵庫と寝袋の話をしていたスレが、7年後には仏壇と墓の話をしている。物を減らす話が、いつのまにか、年を取る話になっている。そして昔のスレの書き込みを、そのまま貼り直すだけの書き込みが混じり始める。

いまの最新は、Part 29だ。2021年9月に立って、5年かけて136レス。2024年は1年で4レス。2025年に少し戻って38。2026年は、ここまで5。

136のうち、30ちょっとは、句点ひとつか「あげ」だけの書き込みだ。スレが落ちないように、誰かが「。」と打っていく。値段の動かない株に、それでも毎日1株だけ注文を入れて、気配値を灯しておくみたいに。

2024年の正月明けには、久しぶりに来た人が、スレそのものが片付いてしまったじゃないか、と冗談を言っている。極限まで物を減らすスレが、極限まで書き込みを減らした。冗談として、たぶん、このスレの歴史でいちばん出来がいい。

2024年の春には、持病があって手放したソファが、処分するのに思ったより金がかかった、だから捨てるときのことまで考えて買え、という書き込みがある。2025年の夏、少しだけ会話が戻る。掃除機をやめてほうきで足りるか。そして、物を減らすこと自体が目的になってしまったのが悩みだ、という書き込み。13年かけて、スレはそこまで来た。

じゃあ、ミニマリストは死んだのか。死んでいない。生活全般板には「ミニマリストを目指そう」というスレがあって、Part.32が今年の8月に立って、3か月で800近くまで来ている。こっちのほうがよっぽど元気だ。人はいなくなったんじゃなく、隣の板に移っただけだ。「極限」が抜けて、ふつうの「ミニマリスト」になって。出来高は、銘柄を乗り換えた。

Part 29には、新しい書き込みのあいだに、昔の書き込みが何度も貼り直されている。物と一緒に趣味も友達も手放してしまった、という2015年6月、崖の直前の短い書き込みは、2016年にも、2018年にも、去年にも貼られた。今年の5月には、2013年11月、Part 19のころの部屋の書き込みも貼り直された。チャートのいちばん高いところだ。

いちばん人がいた頃の約定を、誰かがいまも、もう一度板に出している。

約定はしない。たぶん、もう誰も買わない。それでもスレは、上場廃止にはなっていない。掃除板の一覧の、上から100番目くらいに、今日も名前が出ている。この記事には、その書き込みを1行も貼っていない。貼れないし、貼らなくても、まだそこにある。

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