味の良い食物および飲料をほどよく摂ることによって、芳香、緑なす植物の快い美、音楽、演劇、そのほか他人を害することなしに各人の利用しうるこの種の事柄によって、自らを爽快にし元気づけることは賢者に相応しいのである。

スピノザ『エチカ』

 

『暇と退屈の倫理学』をコメントで薦められて、この前読みました。

著者の國分功一郎さんは、できるだけ簡単に書こうとしているのでしょうが、それでも僕にとってはなかなか難しい。

しかし、興奮して読むことができました。

よくこのブログで取り上げえいる、人生つまらん問題にも関わるものなので、紹介したいと思います。

 

 

そもそも『暇』とは、客観的なもので、暇な時間とか自由な時間のこと。

『退屈』とは、主観的なもので、何かしたいのにできないという感情のこと。

裕福になった先進国の人は暇を得た。しかし、その暇をどう使っていいのかわからない。

そこに、資本主義社会が、その暇を埋めるため娯楽を提供するために付け込んでいく。

最近だと、パズドラとかのスマホゲーとかが凄いですよね。

そんな暇と退屈について、先人たちの知恵を借りて考察していく本です。

 

 

まえがき

まず、まえがきの部分でちょっと面白いです。

スポーツバーでサッカー観戦に熱をあげている男に対して、

彼はサッカーの試合の 、成り行きに一喜一憂しながら大声を上げている。 シュートが外れれば大きな声で落胆し、選手がドリブルで進めば大きな声で歓声を上げた。
不思議だったのは彼が楽しんでるようには見えないことだった。彼の声は明らかに周囲の人たちに向けられていた。それはなんというか、自分を見てほしいとの思いが込められた声だった。自分はサッカーの試合に熱中している、と、彼は全力で周囲に訴えかけている、そんなふうに見えた。

これ、福本伸行先生の最高傑作『黒沢』の最初のシーンと同じなんすよ。笑

最強伝説黒沢

 

 

ラッセルの幸福論

 

不幸の中の幸福

ラッセルっていう哲学者の考えが語られてるんですけど、このラッセルの考え方が結構ヤバくて好きです。笑

今の西欧諸国の若者達は自分の才能を発揮する機会が得られないために不幸に陥りがちである。それに対し、東洋諸国ではそういうことはない。また共産主義革命が進行中のロシアでは、若者は世界中のどこよりも幸せであろう。なぜならそこには創造すべき新世界があるから…。

つまり、革命とか戦争の中にいる人は、濃密な生を得れるから幸福。

平和で完成した世の中で暮らしてる人は、そうじゃないから不幸という話。

確かに、魔王を倒した後のドラクエとか絶対クソゲーですもんね。

 

生きているという感覚の欠如、生きていることの意味の不在、何をしてもいいが何もすることがないと言う欠落感、そうしたなかに生きているとき、人は打ち込むこと、没頭することを渇望する。

大義のために死ぬとは、これの究極形態だそうです。

暇で退屈な人間は、そういうのに憧れてしまうと言ってます。

 

これまた、ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂという小説で、

『それでも結構幸せだったんじゃないの?お祭りみたいで。お国のために我が犠牲にする自分に酔えて。なんつったて、絶対に正しい正義のために死んで行けるんだぜ。最高じゃん。』

という台詞があったのを思い出しました。

 

幸福の中の不幸

「動物は、健康で、食べるものが十分にあるかぎり幸福である。人間もそうであると思われるのだが、現代世界ではそうではない。

「食と住を確保できるだけの収入」と「日常の身体活動できるだけの健康」を持ち合わせている人を襲っている日常的な不幸と言ってます。

飢餓や貧困にははっきりとした外的要因がありますが、日常的な不幸にはそれがありません。

原因がわからないから、対処法もわからない上に、逃れようがない

 

熱量

ラッセルの結論はシンプルで、幸福であるとは、熱意をもった生活を送ることと言ってます。

このブログでも熱量の話はよくしますが、ラッセルは熱量を持つためには、

あなたの興味をできるだけ幅広くせよ。
そして、あなたの興味を引く人や物に対する反応を敵意あるものではなく、できるだけ友好的なものにせよ。

とも言ってます。

 

ラッセルの問題点

ラッセルの話には、不幸な状態、つまり革命が必要な社会とか戦争状態とかを肯定してしまうという問題点があります。

著者の國分功一郎さんも「さすがにこれは言い過ぎだろ」と思ったらしく、ラッセルのこの考え方は、熱量に飢えている現代人は悪い人の搾取の対象になるぞと言ってます。

悪い国とかブラック企業とかこういうのを利用してきますもんね。「夢や!情熱や!働け!!」とか。笑

でも、僕はこのラッセルの考え方はしっくりきます。やっぱ熱量あっての人生だと思うんで。

外から与えられる情熱じゃなく、自分の内から出てくる情熱なら問題無いと思います。

 

 

 

パスカルの退屈の撃退方法

 

ウサギ狩りを楽しむ人はウサギがほしいのではない

このパスカルっていう人が、ウサギ狩りをしようとする人にウサギを渡すんですね。

「ほれっ!ウサギが欲しいんだろ!」って

そしたら、ウサギ渡された人は嫌な顔をするだろうって。笑

 

つまり、欲望の対象であるウサギは実はどうでもよくて、欲望の原因である気を紛らしてくれる騒ぎが欲しいだけ。

欲望の対象とは、何かをしたいと思ってる気が向かう先のこと

欲望の原因とは、何かをしたいという欲望を人の中に引き起こすこと

普段サッカーとか全く観ないのに、ワールドカップの時だけ騒いでる人がそれに当たります。

 

パスカルはこういう欲望の対象と欲望の原因を取り違えている人をディスって、退屈に対する解決策は信仰だと言ってます。

まあ現代の神が死んだ時代に生きている僕達にはしっくりこないですよね。

 

 

 いつから人類は退屈になった?

1万年くらい前から、人類は定住生活をするようになったらしいです。

定住生活では、エネルギー消費が少ないので、能力過剰になります。

それが文明の発達につながるのですが、同時に退屈というものも生み出しました

400万年間、遊動生活をしてきた人類は、遺伝子的にまだ定住生活に慣れてないそうです。

人間は遺伝子的に、遊動生活で適度な負荷がかかるほうが快適なのかもしれません。

まあ定住生活のおかげで、爆発的に人口が増え、文明も発達していったんで、「後戻りしろ!」ってのはムリですけど、たまには旅行したり、ノマド的な生活をしてみたりすれば、適度な負荷が退屈を生み出さないはずです。

退屈に対する一つの対処法として、この考えは役に立ちそうです。

 

 

暇を生きる術を知る者と知らない者

定住生活をし、時代が進み、有閑階級というものが出てくる。

暇を持て余した集団。暇を見せびらかす集団。

そして、更に時代が進み、ブルジョワジーが出てくる。

平民出身の成金。

ここでヴェブレンって人が、ブルジョワジーは暇を生きる術を知らない、彼らは暇だったことがなかったから、しかし有閑階級は暇を生きる術を持っていたと言います。

現代、労働者階級、つまり大多数の人たちも暇を持っています。

暇を生きる術を知らないのに、暇を与えられた人間が大量発生したということです。

しかし、労働者の休みは資本家に管理された休み。つまり仕事効率を上げるための適度なガス抜きとしての休日

有閑階級の品位あふれる閑暇の伝統がない現代の労働者は、レジャー産業などに狙い撃ちされます。

また、レジャー産業などを否定しても、退屈という怪物に悩まされる…

 

有閑階級の暇を生きる術も退屈に対する一つの対処法の可能性があります

残念ながら、本書のなかで具体的なことは書かれてはいませんでした。

 

 

 まとめ

とりあえず、『暇と退屈の倫理学』を途中まで紹介しました。

結構端折りましたが、ラッセルは情熱を持てと、パスカルは信仰を持てと。

しかし、その両方共、重大な欠陥があると。

つまり、国や神のような大いなるものに身を委ねてよいのかという批判。

 

退屈に対する対処法として、参考になりそうなのが、『定住生活と遊動生活』の考え方と、『有閑階級の暇を生きる術』

とりあえず、ここまで紹介しました。

著者の國分功一郎さんの考えはまだ出てきていません。

次回、続編をまた書きますのでよろしくお願いします。

 

追記 次の記事

 

 

暇と退屈の倫理学

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  • 最近のコメント

  • 13 コメント

    1. こんにちは。
      欲望のはなしでラカンを思い出しました。精神分析の人なんですが、彼によれば「欲望は、他者の欲望である」らしいです。あるものを欲しいと思うのは、他のみんながそれを欲しがるから、みたいなことでしょうか。欲望は他者からもらう。自分の欲望だと思っているものは、実は他者から植えつけられたものでしかない。流行を追いかけることはもちろん、正義のために死ぬことや神への信仰も、けっきょくは他者の欲望に忠実に生きることでしかない、ということだと思うんです。いまの自分のあり方というのは、自分で選びとったというよりも、むしろ他者から受け取ったさまざまな欲望の集積にすぎないという考え方でしょうか。
      ミニマリスト的な生活は、むしろ逆に、他者からの欲望を受け取らずにいかに生きていくのかということになると思います。ミニマリストの方には、他者のあいだでひろく共有されている既存の価値観への懐疑や否定があると思います。そして自分なりの価値観を自分でつくっていこうとする。そうであるならば、他者からの欲望をほとんど受け取らなくなる、したがって欲望が芽生えなくなる、流行りとかどうでもよくなる、なんにもいいと思えなくなる、結果的には人生つまらんとなる。ミニマリストの方は、欲望の他者性に、欲望を追いかけることの虚しさに、無意識的に気づいておられるのではないでしょうか。
      人生つまらん問題の直接的な解決にはならないかもしれませんが、「ミニマリスト生活によってもたらされる虚無感」を説明する理屈として、ラカンの理論はけっこう使えるのではないでしょうか。
      ちなみに、欲望の原因について、ラカンさんは対象aがどうのこうのとおっしゃているのですが、自分にはむずかしすぎてよくわかりません。(笑)
      長々と失礼しました。

      0
      • 前にラカンを読もうとしたんですけど、あまりの難解さに諦めました。笑
        心理、仏教とかの本を理解できる人を尊敬します。

        今ある自分にはオリジナルなアイデンティティなんてなく、あるのは他者との関係の積み重ねという考えでしょうか。
        構造主義的な考え方ですね。
        人生つまらん問題の原因の説明として面白いものと僕も思います。
        他者性により自分ができているという前提に立ち話を進めると、他者性を否定しまくるとは、自分がなくなるというとこです。つまり虚無状態です。

        ここから抜け出すには、反転させ、他者性を肯定することが必須だと思います。
        一度、虚無まで否定し尽くしたなら、有る程度の『目利き』ができるはずです。「これはクソだな」と。
        本当にイイものとクソなものが判断できます。
        この『目利き』の能力がミニマリストには必須だと思います。
        それがなかったら大いなるものに利用されます。

        面白いコメントありがとうございました!

        0
    2. こんばんは。
      さっきスマホでこの記事を読んでいたのですが、スポーツバーのくだりで、
      黒沢みたいなだなぁと思ってました。
      ちょっとスライドしたらすぐそのシーンの画像があったので笑えました。

      確かに面白そうな本ですね。
      僕も読んでみたいと思います。

      0
      • 僕も『暇と退屈の倫理学』読んだ瞬間、黒沢のシーンが浮かびました。笑
        大好きな漫画の一つなんで。笑
        続編やってますけど、それも面白いですよ。

        0
    3. 便乗ですみません
      夜のちくわさんの
      「欲望のはなしでラカンを思い出しました。精神分析の人なんですが、彼によれば「欲望は、他者の欲望である」らしいです。」からこの話を思い出しました
      平たく言うとアメリカの大リーグのスカウトマンがインドの貧乏人の野球選手を育てる話
      ところが彼は才能があるのにハングリー精神とかなりあがり精神がなくて困った
      どうする?って話です
      http://miyearnzzlabo.com/archives/18880

      「(町山智浩)欲望っていうのは植え付けられるものなんですよ。育っている中で。もともとあるもんじゃないんですね。だから、『いいなあ、あれ』っていうのがあって、はじめて欲望ができるんで。ないから。元々、『いいなあ、あれ』が。」

      0
      • すごい面白い記事でした。
        欲望の恐ろしさが感じられますね。
        横山三国志に、今まで遊んだことのない劉備に、曹操が酒池肉林を与えて、劉備を腑抜けにするって話がありましたが、それを思い出しました。

        欲望を開発する天才的なやつがいると思うんですが、そういうやつが資本主義社会で大成功してる気がします。

        欲望の力が強烈過ぎて、どう接するべきか色々考えたいです。

        0
    4. シンプルに考えて。
      人生の第二ステージに行く時期。
      他人のために生き、人間を細胞から作る、終わりなきゲーム。

      0
    5. 365日のシンプルライフ見てきました
      彼は完全は捨てたわけではなく預けただけで厳密にはミニマリストとは違いますね。
      まあそれでもなかなか楽しめました。

      0
      • もうやっているんですね。
        Twitterでアベさんに教えてもらいました。
        めっちゃ観たいんですよねこれ。
        また観たらレビュー書きたいと思います。

        0

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